空のいろ

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ル=グイン著 「西の果ての年代記」三部作

深冬です。
イライラした時とか、腹がたって落ちつかない時、読み返す本があります。

「西の果ての年代記」シリーズ三部作です。
 ギフト
 ヴォイス
 パワー

中高生以上にお勧めです。

著者は、ル=グイン。
ゲド戦記や、闇の左手と同じ作者です。


書かれたのは、2004年から2007年。
日本語翻訳版は、2006年6月から出版されました。
文庫版は、2011年2月に出ています。


この物語は、それぞれに主人公が違います。

それぞれの主人公たちの手の届く距離、というか、生活圏、想像の及ぶ範囲というのが、一作ごとに違います。
物語の時間は進んでいますが、主人公の年齢はあまり変わりません。
三部作を通じて登場するのは、「ギフト」の主人公オレックと彼の伴侶メマー。
一作ごとに時間は進んでいるので、「ギフト」の二人は登場するたびに歳を取り、何かを得、何かを失っています。


「ギフト」の舞台は辺境で、家族とその一族が、主人公オレックの世界の全て。

「ヴォイス」の主人公メマーは、自分の住む都市、そして彼女らの都市を支配する敵が、世界の全て。

「パワー」の主人公ガヴィアは、物心ついた時には奴隷で、それ以外の生き方を知りませんでした。けれど彼は、その境遇から、少しずつ外へ押し出されていき、自分から『自由』と『自分の場所』を求めていきます。

どの主人公も、自分のいた場所の呪縛から、離れる事で物語は終わります。


このシリーズでは、最後の物語のタイトルが「パワー」となっていますが、最初の「ギフト」からすでに、様々な『力』について語られています。
自分の中にある力、自分が及ぼす力、他者から加えられる力。
何を選び、何をはねのけるのか。
どう選び、どうはねのけるのか。
様々な在りようが、シリーズを通じて描かれます。
はねのけることは、捨てることにつながることもありますが、物理的には遠く離れても、心の中の距離は、何かの拍子にあっという間に詰まります。そんな描写も出てきます。またその逆も。
懐かしく思うか、恐れを抱くか。その両方なのでしょうか。

主人公たちが、呪縛ともいえるものから離れた後、どうなるのでしょう。
それは、オレックが、「パワー」で最後に登場した時に示唆されているように思います。
「ギフト」の主人公オレックは、事情により、目が見えるのに、目隠しをしての生活を余儀なくされています。
物語が「パワー」に到り、「ギフト」で課せられた彼への理不尽な行いは、自然な流れとして彼に戻って来ているようでした。はっきりとは描かれていませんが、オレックとメマーは深く静かな悲しみと共に受け入れているように見えました。
陽射しに満ちた諦観です。そこには光だけでなく、深い影も存在します。


物語の中には、別の形の「諦観」や「あきらめ」、「諦めきれない者」も多く描かれます。


「ヴォイス」の主人公のメマーも多くの理不尽を背負って生まれてきています。
メマーが「パワー」のラスト部分で見せている姿も興味深いです。


「パワー」のガヴィアは信頼を捧げ、その相手からの裏切りと、自分自身の心に対する裏切りに、打ちのめされます。なのに、それを何度も繰り返すのです。でも「責任」を負った時、彼はとても用心深くなっていきます。
自由。幸せ。責任。
オレックは、会ったばかりのガヴィアに、奴隷ではない立場になるための保証人になると言います。これも「責任」。


このガヴィアがオレックと出会ってから、ラストシーンへと向かうところは、まるで「予定調和」のように見えましたが、それは物語としてみるからだろうなと、私には感じられました。


裏切られても、信じることを恐れない。
「西の果ての年代記」三部作は、そういうところにも、「自由」と「力」は存在すると語っているように思います。


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2017.4.6.全面改稿しました。