空のいろ

本、映画、TVドラマの感想を書いてます。悪性リンパ腫になってしまいました

サトクリフ著「ともしびをかかげて」は、大人にもお勧めの児童書。

2017.04.28.
深冬です。

「ともしびをかかげて」を初めて読んだのは、小学六年生だったと思います。

ローズマリ・サトクリフの本に初めて出会ったのは、学級文庫でした。そういうのが教室にあったんです。
読んだのは「運命の騎士」。すごく心を動かされました。それでサトクリフの作品を何冊か続けて読みました。
「ともしびをかかげて」もその一連で読んだ記憶があります。
ローマ三部作(今は四部作になっているそうです。)とは、その頃知らず、実は他の二作は読んでません。
当時なぜ読まなかったのかは、覚えていません。何でだったんだろう。
ローマ三部作の一作目は、「第九団のワシ」というタイトルが乙女心を動かさなかったのかもしれません。
二作目の「銀の枝」は、逆にタイトルがファンシーすぎてスルーしてしまったのかも。
今も機会がなく、まだ読んでません。
前の二作を知っていたら、きっともっと面白かったのでしょうけれど、独立した作品として読むことが出来ます。

当時小学生の私は、当然、古代ローマ帝国のことなんて知りませんでした。
「ローマは一日にしてならず」ってことわざがあるよね、くらいのものです。

けれど、時代設定を知らなくても、主人公アクイラに降りかかる出来事に、ハラハラしながら最後まで読んだのを覚えています。

二十歳の頃に再読して初めて、イギリスって、ローマ帝国の一部だったんだと驚きました。

塩野七生さんの「ローマ人の物語」を読むのはさらにずっと後ですから、この時の私の古代ローマの知識はほぼゼロです。

いつの頃だかよくわからないけど、ユリウス・シーザーとクレオパトラアントニウスのラブストーリーがあった。でもオクタビアヌスにとっては、クレオパトラはおばさんだから誘惑に乗らなかったんだよね、ぐらい。

あとは、ローマはいつの間にか西と東に別れていて、どういうわけかキリスト教が国教になってる、何故?

で、いつの頃からか「神聖ローマ皇帝」とか出てくるけど、「ローマ教皇」とは違うよね、
ローマ帝国っていつまであったんだっけ? どうなってるの?


というていたらくでございます。
歴史が全くわかっていない状態でしたが、大丈夫。
「ともしびをかかげて」には、ボロ泣きさせられます。


物語はブリタニア
ローマ地方軍団の一指揮官である主人公アクイラが、休暇で実家に戻り、妹フラビアと語り合うシーンから始まります。
アクイラは、しばらく休暇があるはずなのに、その日のうちに呼び戻され、砦に戻ると、三日のうちにブリテンから撤退すると聞かされます。
ここでアクイラは大きな決心をします。ローマ人ではなく、ブリテン人として生きることにしたのです。それは脱走兵になる事を意味します。
アクイラの決意は強く、けれどローマに対する気持ちも失ったわけでなく。
彼は、消えゆく最後のローマ艦隊を見送りながら、ルトピエの灯台に火をともします。
そして父の家に戻り、受け入れられたのですが、数日後に敵に襲われ、妹が浚われ、他の者たちは全員殺されてしまいます。
大怪我をしていたアクイラは、オオカミに襲わせてやれと、その場に取り残されますが、別の略奪集団である海賊に奴隷にされてしまいます。そこでの生活は厳しく、海賊たちはブリテンに行く話を持ち込まれて受け入れます。
アクイラは奴隷の首輪をつけられ、ブリテンに戻って来るのですが、そこで意外な再会をします。死んだと思いたかった妹のフラビアが、敵の妻となっていたのです。フラビアの助けを得て、アクイラは一人脱走します。
彼は、父の襲われた理由が、自分たちの味方であるはずの連絡係の裏切りと知り、復習を誓い、逃走します。
そして、思いがけず修道士ニンニアスに出会います。彼をを信頼したアクイラは、自分の話をしますが、復習をする相手がすでに死んでいる事を知らされます。
全てを失ったアクイラに、ニンニアスは、その穴を父が仕えていた人に会って埋めよと勧めます。
そうして、アクイラは、アンプロシウスに出会う旅に出て、彼と出会い、一緒に戦い、妻を得、息子を得ます。
けれどアクイラは、かつての父の家のような居心地の良い家が築けません。
気落ちするようなことがあっても、戦いは続きます。
そして大戦の中で、アクイラは敵の兵士に妹そっくりな顔を見ます。
勝った戦いでしたが、アクイラはその兵士がどうなったか気になって仕方ありません。
けが人のためにやって来ていたニンニアス修道士と再会したアクイラは、彼と二人でいる時、その妹そっくりの兵士を見つけます。
その兵士と話をし、妹の息子だと確信したアクイラは、彼を無事脱出させてやります。
このころから、アクイラは自分の気持ちを言葉にして話せるようになっていきます。
妹の息子の無事が確認できた時、アクイラは、この敵兵を助けたという裏切りを、祝宴の場でアンブロシウスに告白します。この時に、息子が自分の隣に立ってくれました。
アンブロシウスは許してくれます。
そして先のない未来のための戦いは続きます。
けれどアクイラの家には、かつての父の家のような居心地のよい場所が作れそうな予感を感じさせて、物語は終わります。


物語は、深くて波乱万丈です。


二十歳の頃より、少しばかり知恵はつきましたので、この物語の時代について、少しだけ。
いつ頃のことか推察できる個所は、物語の最初の方に出てきます。
アクイラは「最後のローマ正規軍が出て行って四十年」と言っていて、父親は「アエティウスに援軍を求めた」と言っています。

塩野七生さんの「ローマ人の歴史」によると。
紀元四一〇年にブリタニアからの撤退命令が皇帝から出ています。
アエティウス将軍は、紀元四三二年から二十二年、帝国を守った人です。

だから四一〇年が、アクイラが言う「正規軍の撤退」でしょう。
その四十年後となると、四五〇年頃ということになります。ティベリウスは四五一年にはフン族と会戦をしているので、アクイラたちが招集をかけられても全くおかしくはないかもしれません。

どこまでがノンフィクションで、どこからがフィクションか。
気になるところではありますが、長い目で見ると、アクイラたちの敵であるサクソン人がイングランドを制圧することになるのは間違いありません。
それを知っているから、物語のラストでは、せつない気持ちになります。

大人になってゆくにつれ、行間から読み取れる「何か」が多くなりました。
児童書の侮れないところは、そういうところです。

子どもの頃に出会っておくと、再読という楽しみがあります。
私にとって、「ともしびをかかげて」も、それができる一冊です。



■ローマ関連の話

「ローマの歴史」T・モンタネッリ著は、文庫本一冊で古代ローマを語る。 - 空のいろ

塩野七生著「ローマ人の物語」は、長いけど面白い - 空のいろ



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