空のいろ

本、映画、TVドラマの感想や、日々思ったことなどを書いてます

「ユートピア」(トマス・モア著)は、16世紀初頭の怖い話。

2017.04.30.
深冬です。

現在、「ユートピア」は、空想的なこと、どちらかというと楽観的な楽園という感じで使う言葉になっていると思われます。


作者は、イギリス人、サー・トマス・モア(1478-1535)。
イギリス政府の要人でした。
でも英語ではなく、ラテン語で書き、初版は1516年にルーベンで発行され、翌年にパリで第二版がでました。
先にヨーロッパ大陸で広く読まれ、イギリスには後から入って行ったそうです。
どうしてイギリスが後だったのかは、「第一巻」の内容を読むとわかります。政府批判をしているからです。
本人もやばいと思って、最初イギリスでの発行をしなかったのでしょう。
でもベストセラーになってしまい、結局イギリスに入ってきたのは、モアの読み違いかも?


この本は二部構成になっていて、「第一巻」、「第二巻」がありますが、一冊に納められています。


架空の人物である「ラファエル・ヒスロディ」さんに、本音を語らせています。
一人称で書かれているので、聞き役の一人である「私」は、トマス・モアでしょう。

第一巻では、ラファエルさんの言っている事には、納得させられながら読みました。
凶悪とはいえない窃盗でさえ死刑だったそうです。毎日処刑があったというのですから怖い。
でも日本も、江戸時代は十両盗めば死罪ですから、そういう時代だったのかもしれませんが・・・。イギリスのそれは、日本の比ではなかったようです。

ラファエルさんの主張を読んでると、四百年経って私たちが得たものは「人権」という考え方だけなのかなと思ってしまいました。


そして問題の「ユートピア」については、第二巻で語られます。
ツッコミどころ満載です。
モアさんたちは、感心して聞いていますが、現代日本人の私としては、ありえない!

どこのカルトですか? 閉鎖的コミュニティーですか? って感じです。

例を上げて感想を述べるときりがないので、三つだけ。

ますは労働時間、六時間だそうです。
いいですね。羨ましい。
でも、機械のないあの時代に、労働時間六時間で、どれだけの生産が見込めるでしょう。
それができる理由や、六時間としている理由も語られています。でもこれは、労働者を机上のものとしてしか考えた事のない人の理屈だなぁと思ってしまいました。

そして、服。
ユートピアの人は、お洒落に関心ないようです。
白い服を二年、着続けるのだそうです。ヘビー・ローテーションどころの話じゃないです。
着たきりで二年、ありえない。洗濯替えもないの?
そうか、洗濯した事のない人は、そんなこと考えないよね・・・
でも、それが粗末だという認識はモアにもあったようで、解決策があります。
上から皮のコートを着て隠してしまう事。
そのコートも七年、着るそうで・・・
なんか、悲しくなってきました。

そして三つ目は、かなりの軍事国家だと言う事。
負けると分かっていても死ぬ覚悟で戦うのだそうです。
ファンタジーの勇者? いえ、大真面目です。
そう教育されているのだそう。
そんな国、嫌だ。今でもあるのでしょうが・・・


でも、これを書いたのは十五世紀末から十六世紀初めの人。
しかもラテン語ということは、読んでいるのは知識人のみ。
この本が支持されたのは、自分がその国の民になりたいというのではなく、自分の領土をこんなふうに治めたいと思ったからではないでしょうか。


読後、なんだこれ、という気分になる「ユートピア」。
第一巻にちょっと共感できたから、尚の事、裏切られ感が大きかったのですが、これは16世紀のベストセラー。そう思って読むのが大事かと。

ユートピア」に描かれているのは、理想でも楽園でもありません。
16世紀の知識人の妄想みたいなものと、私は解釈することにしています。


解説に書かれているトマス・モアの人生の方が、興味深いかもしれません。
ヨーロッパは、ルネッサンスと宗教闘争と国土拡張戦争で、大混乱だった頃。
彼は、法律家で、高等法院裁判所の判事まで務めたそうです。
時の国王はヘンリー八世。
女王エリザベス一世父親の、あのヘンリー八世です。
政府の要職についていたモアは、敬虔なカトリックでした。ヘンリー八世の離婚問題には、肯定の立場を取れません。
そこから彼の転落が始まり、処刑されることになってしまいます。

シェークスピアが「ヘンリー八世」を書いていますが、私は読んだことないです。
ウィキ先生によるとモアは出てきてなさそうです。

ヘンリー八世の離婚騒動に関して、私が見た事のあるの映画は、二本。
2008年に公開された「ブーリン家の姉妹」と1969年公開の「1000日のアン」。
でも、どちらも、モアは出てきてなかったと思います。


トマス・モアが主人公となった映画はないかとウィキ先生に確認したところ、一本ありました。
わが命つきるとも」。1966年の映画ですから、「1000日のアン」より古い。
でもアカデミー賞を取っているので、当時はヒットしたのでしょう。
古い映画だから、見る機会を得るのは難しそうです。



■映画「エバーアフター」では「ユートピア」が重要な小道具(?)として登場します。
映画「エバーアフター」は、ドリュー・バリモアがシンデレラ。 - 空のいろ


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