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空のいろ

本、映画、TVドラマの感想や、日々思ったことなどを書いてます

ルイス・サッカー著「穴HOLES」が、私にとって面白かった理由

2017.5.8.
深冬です。

ルイス・サッカーの「穴HOLES」を教えてくれたのは、甥でした。
いや、教えてくれたというより、彼の言動から知ったというのが正しいかも知れません。

彼が10才くらいの時だったでしょうか。
実家に両親と遊びに来ていたのですが、食卓に出されたサラダを、妙に熱心に見ているのです。
特に珍しいサラダではありません。甥も何度も食べた事のある「いつものサラダ」です。トマト、きゅうり、レタスの上に薄切りの生玉ねぎ、血液サラサラ効果を期待しての玉ねぎドレッシングがかけられています。
甥は、その「いつものサラダ」をまるで初めて見たかのように嬉しそうに見て、言ったんのです。
「玉ねぎ。」
それから、彼のパパとママを見ながら、
「ほら、玉ねぎ、玉ねぎ。」
と続けます。
両親の方はと言うと、これまた楽しそうに答えます。
「ほんまやね。」
「玉ねぎ、いっぱい食べ。」
どういうこと? 「いつものサラダ」なのに。当然私はストレートに聞きました。
「玉ねぎになんかあるん?」
甥は一所懸命答えようとしてくれます。
「あんな、玉ねぎ食べたら、強くなるねん。」
「そうなん?」
「一杯食べたら、元気になるねん。サムが売りにくんねん。」
サムって誰?
甥っこの心は、すでにサラダにクギヅケです。おばあちゃんはその気持ちを読み間違えたりしません。
「たくさん、食べて。」
と、サラダボールを彼の側によせてあげています。
トマト嫌いの彼のお皿に、ママが玉ねぎと一緒にトマトも食べるように言い聞かせているのを横目で見ながら、私は、彼のパパである弟に質問を開始しました。
「で、その玉ねぎって?」
「本の話。ほら、教えてあげて。」
弟は、息子にまた話を振ってしまいました。それに応えようと、甥は目をキラキラさせながら、教えてくれます。
「あのな、穴、掘るねん。」
「穴?」
「うん。悪いことしたからやなねんけど、本当はしてないねん。でも、穴、すごいたくさん掘らなあかんねん。それで、玉ねぎ売りのおじさんがいてて、その玉ねぎがすごいねん。」
どうしよう。穴とたまねぎのつながりがわからない。
「そっかぁ。」
と、私は甥に笑顔を向けてから、弟に再度説明を求めた。
「どういう関係があんの?」
「全部つながっていくねん。いろんな話が全部、面白いで。」
なるほど。面白い話なら、読まなくては。
「じゃあ、貸して。」
次に会った時に弟はその本を持ってきてくれました。
たぶん、私が直前にメールをしなかったら忘れていたと思います。

弟には変な信条がある。
『姉は、弟を下僕と思っている。これは世界共通の理念だ。』
と。
失礼な話だ。
酷い女だと思われるでしょうが、「姉」が「兄」になっても同じだと思う。
でも、どうも弟の頭の中では全く違うらしい。
それはともかく。


そうして借りて読んだ本ですが、面白かった。もちろんちゃんと返しました。
借りたのは単行本でしたが、本屋さんで偶然、文庫版を見つけてしまって衝動買いをしてしまいました。


物語をもう少し整理して説明すると。
主人公は、いじめられっ子のスタンリー・イェルナッツ。彼の父親は発明家だけど成功しそうにない。母親は良い人だ。貧乏で大変なのに、彼らが明るいのには、理由がある。
イェルナッツ一家には、代々伝わるジョークがあるのだ。上手くいかないことが起こるのは、スタンリーのひいひいじいさんのせい。
でも、ある日、深刻な事態が起った。
スタンリーは、スニーカー泥棒の濡れ衣を着せられ、施設に入れられることになったのだ。
そこでする事はひとつ。
穴を掘ること。
施設だから、犯罪を起こした子どもたちが他にもいる。
スタンリーは、毎日穴を掘り、仲間たちとやり取りをする。
そのストーリーの合間に、別のエピソードが入ってくる。
イェルナッツ家で冗談にされている、ひいひいじいさんの話。
スタンリーの回想で登場するひいじいさんの話。
玉ねぎを売るサムと学校の先生キャサリンの話。
この差し込まれ方が絶妙で、全てが集約していくのをみるのと、読んでる方は、にんまりしてしまいます。

この本は、1998年にアメリカで発行され、その翌年には、日本語訳が出版されました。

アメリカの子どもたちが、当然、自国の歴史を教えられているでしょう。
でも、日本の子どもたちはアメリカ史をしっかり学ぶことはまずないはずです。私もアメリカの歴史の事情を知るのは、かなり大人になってからでした。
アメリカ人なら、ピンとくることが、日本の子どもにはわかりにくい。

でも、これが児童文学の醍醐味。

本を読んでから、私は甥に聞いてみました。
「ゼロは、おかあさんと再会できてよかったね。」
すると彼はきょとんとした顔をして、
「え? 出て来た?」
と、言ったのです。
「ん、最後にね。」
私はそれだけ言って、話題を変えました。
きっと彼は、私とこんな会話をしたことを忘れているでしょう。
心の中で、めっちゃ楽しいと思ってしまいました。

キャサリン先生が、ケイト・バーロウと同一人物と気づいているかな?
人種差別問題がどんなものだったを知るのはいつだろう。この本を読んで身近に痛みを感じるのはいつ?
甥が、大人が読んでも面白い「穴 HOLES」をまた読んだ時、子供の頃に気づかなかったたくさんの事を拾い上げ、これって、こんな話だったんだと思うところを想像するのは楽しい。

でも、この話の中でいちばん心を惹かれるのは、後半。特別なところは何もない男の子、スタンリーが、迷いながらも努力をして前に進み続けるところです。
友だちを得て、力の限り踏ん張るところです。

子どもの頃に読みたかった。
 

最後に。

私が文庫本を買ったと弟に言った時、こう返されました。
「原書にしたらよかったのに。文章、難しないから読めるで。」

ということなので、英語に自信のあるかたは、原書にチャレンジして下さい。
目安としては、TOEIC700を超えていたら、楽勝みたいです。
私は、400ちょっとしかないので、挑戦はせず、その分、他の本を読む事に致します。
 


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