空のいろ

本、映画、TVドラマの感想や、日々思ったことなどを書いてます

磯田道史著「武士の家計簿」

2017.6.1.
深冬です。
最近、教養番組以外でもお見受けするようになった磯田さん。一般的な感想や、お笑い系タレント的反応を求められて、動揺している姿にハラハラします。教養番組でテンションの高く持論を述べる磯田さんの方が、ずっとおもしろいと思うのですが。

その磯田さんの本。「武士の家計簿加賀藩御算用者」の幕末維新」。
最近「江戸の家計簿」という本を出されているようですが、2003年に発行された方の本です。

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武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)

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ここで語られるのは、加賀藩の経理担当者、猪山家の人々。幕末維新を含む三六年間の記録についてです。

私は、ドラマなどのフィクションの世界でしか武士の生活を知らなかったので、記録を基にしたリアルな生活事情が興味深かったです。

猪山家の人々の暮らしぶりから、当時の武士の習慣や儀礼や、親戚縁戚とどんな付き合い方を紹介されています。知られざる武士の世界。交際費が半端ないです。

この本の山場はふたつあると考えます。
まずは、身を削った借金返済計画。
ふたつめは、維新後の生き残り戦略です。



なぜ借財が膨れ上がったか。
江戸詰という出世の糸口は、家計の破綻と隣り合わせの負担の大きなことだったようです。
猪山家の当主たちは、几帳面な経理担当者だったようで、とにかく記録魔。
家財を売り払って作った金額がとても興味深いです。
茶道具や、妻の嫁入り道具だろう衣類が高く売れてます。
衣類を売ってしまったから、それを収納する家具も売る。本を売ってしまったから、机や見台も売る。
「古紙合羽」なるものまであって、とことん売ったんだというのがよくわかります。
逆に、これだけ持っていたんだということも。
貸し手側に、一目で何もないとわかる状況を作って、返済方法の交渉をする。
この思いっきりぶり。
すごいです。


武士の面目をいったん棚に上げて、この家計の危機を乗り切るには、強い自制心と、絶対にやり遂げるという意志、自尊心を失わない強い気持が必要だったでしょう。
本当にすごい。


幸いなことに、猪山家の人は、算用者としての才能に恵まれ、仕事も順調でん、この借金清算計画の実行を機に財政は上向いていきます。
 

 


そして、二つ目の山場。幕末維新の混乱期をどう乗り切ったか。
攘夷だなんだと大騒ぎだったはずなのに、猪山家の人たちは、政治についてあまり語っていないようです。
前田家が新政府側につくなら、殿様についてきますって感じだったです。
幕末維新の混乱の中、猪山成之が算用者としての能力を発揮して、新政府にヘッドハンティングされるときも、たいして抵抗を感じていないようです。
この新政府へ役人として入れたのは、猪山家の士族としての生き残り最大の運命の分かれ道でした。
武士が、どんどん失業していく中で、彼はしっかりと職をえたのですから。


会計能力。
これがあるって、地味かもしれないですが、強みになります。
そのうえ、計画して実行できる力があるなら、いつの時代も、誰でも欲しがる人材でしょう。

士族の人たちで、会計のプロフェッショナルだった人は没落を免れた人が多かったのではと思います。


けれど、この本から一番感じるのは、語られている猪山家の人々のあれこれより、磯田さんのわくわく感です。
最初の「はしがき」から、もうすでにテンションはMAX。
伝えたくて仕方がないという気持ちが、行間にあふれているようです。
その勢いにも乗せられて、武士のあれこれや、幕末維新時代の移り変わりを、中央からやや遠めの人たちの目線で見られたのは新鮮でした。
お勧めの一冊です。


かつて派遣された職場でのこと。
おじさまの一人に愚痴られました。
「ちゃんと経理がわかってるって、いいよね。どこでも働けるよね。俺なんて、社内ルールで育ったから、よそで通用するか自信ないなぁ。」
と。
海外赴任の経験のある経理職能人でも、こんなこと言ってしまうことってあるんですね。
世界中、どこでもやれるでしょうに!


別のおじさまには、財務諸表のチェックをしていた時、不審そうにこう言われたことがあります。
「深冬さん、経理わかってんの?」
仮にも経理分野の職場に派遣されてきた私に、それを聞くかと思いましたが、穏やかな声でお答えしました。
日商簿記の二級を持ってます。合格証の確認が必要なら持ってきますけど。」
驚いたことに、即言われました。
「失礼しました。」
って。
一級ならすごいと思いますけど、二級でもこんなに威力があるとは思いませんでした。
いつの時代も会計能力は強力なカードなようです。
IT関連は、どんどん資格名が変わりますが、経理のお約束はそうは変わりません。


日商簿記二級。お勧めの資格かもしれないです。